CASE10
不備のある遺言書で、仲良し家族がいがみ合い
CASE10
不備のある遺言書で、仲良し家族がいがみ合い
Jさん 65歳/【家族】妻、長男、二男、三男、四男
Jさんには4人の子どもがいました。4人のきょうだいは全員が結婚し、親と同居している長男以外は県外で暮らしていますが、年に一度は一族3世代が全員揃って旅行に出かけるなど、近所でも評判の仲睦まじさでした。
Jさんは、相続を迎えるにあたって遺言書をつくることにしました。自社を継ぐ予定の二男に会社関係の資産をすべて相続させることとし、同居の長男には自宅や事業用以外の不動産などを相続させることにしました。それ以外の現預金や有価証券、退職金、生命保険などは4人に同額になるように遺産分割を決めました。
借金が嫌いなJさんが現預金をたくさん貯めていたこともあり、三男も四男もそれなりのまとまったキャッシュをもらえることになっていました。
いざ遺言書をつくる段になって、私のところに「具体的なつくり方をアドバイスしてほしい」との依頼がきました。私は財産評価のリストをつくり始めました。ところが、そこで横やりが入ったのです。Jさんの取引先の銀行の営業マンが「うちでも遺言書をつくれますよ」と言い、私がつくった未完成版の財産評価リストをもとに、Jさんに遺言書をつくらせてしまいました。
1年ほどが経って、Jさんの二男から電話がきました。相続で大変なことになっているから、力を貸してほしいという電話でした。
二男のもとに行き、事情を詳しく聴くと、銀行がJさんにつくらせた遺言書が原因で、きょうだい4人が揉めているとのこと。未完成版の財産評価リストには未記載の財産があり、Jさんの死後に2億円ほど判明したのでした。
遺言書には、「記載されていない財産については、長男に相続させる」という書き方がしてありました。未記載の財産の中には、本来、二男が相続するべき事業用の倉庫や社宅、二男が居住している家の敷地なども含まれていました。遺言書に従うと、それらが全部、長男のものになってしまうのです。
長男と二男が争う様子を、三男四男は「二人は俺たちよりずっと多くの財産をもらっておきながら、贅沢だ」という冷ややかな目で見ていました。記載漏れの財産が2億円もあるなら、三男四男ももっと遺産をもらえていたはずだという不満もあったのでしょう。
私もできる限り相談に乗りましたが、遺言がある以上、遺言の内容は守らなければなりません。いったんは遺言通りに遺産を分け、そのうえで二男が経営に必要な遺産を買い取るなどの対策を取りましたが、贈与税や所得税が発生します。4人の間に残る遺恨は消しようもなく、互いが弁護士を通じてやりとりをするようになり、仲良しだった兄弟仲はすっかり冷え切ってしまいました。
問題点まとめ
問題点まとめ
不備のある遺言書は罪
個人の最後の遺志が込められた遺言書は、それだけ重い意味を持ちます。普通は遺族も、遺言書の内容を最大限、尊重したいと思うものです。しかしながら、要領を得ない遺言、不備の多い遺言、遺族の心情を考えない遺言、読み手によって解釈が分かれる遺言は、かえって遺族を混乱させ、遺産分割協議を難しくしまいます。Jさんの場合も、未完成の財産評価リストをもとに遺言書をつくってしまったことで、家族の絆をボロボロに崩壊させてしまいました。