先代から“経営のこころ”を教えられず暴走する後継者
先代から“経営のこころ”を教えられず暴走する後継者
後継者に経営理念が伝えられないと、事業承継を境にして経営方針にブレが生じます。時には、先代の経営方針を無視して暴走してしまう後継者もおり、会社をゆるがすトラブルに発展してしまうケースもあるのです。
経営者の思いが十分に伝わっておらず、後継者との配婦が生じたために、お家騒動に発展してしまった実際のケースとしては、大塚家具の事例などが分かりやすいかもしれません。
大塚家具の創業者である父・勝久氏は、「客と店員が一対一で会話しながら、客の生活に最も合う家具を選ぶ」という経営方針で会社を大きくし、上場企業にまで育て上げました。ところが、イケアやニトリなど競合の台頭で業績が低迷し、2009年に長女である久美子氏に社長職を譲ったのです。
久美子社長は、勝久氏が長年貫いてきた「従業員が付き添ってまとめ買いを促す」などの販売手法は、客に抵抗を感じさせる接客であるとして、独自の新しいビジネスモデルを打ち出しました。久美子社長率いる大塚家具は、今の時代の購買スタイルに合わせたカジュアル路線へと大きく舵を切ったのです。
ところが、勝久会長はこれを快く思いませんでした。久美子社長の経営方針を猛批判しただけでなく、取締役会で久美子氏を社長職から引きずり下ろして、自身が会長と社長を兼任するという荒業に出ました。
しかし、久美子社長の解任後、勝久氏の経営方針で再び走り出したものの、結局は業績不振から脱出することはできませんでした。黙っていられない久美子氏が奪われた経営権を勝久氏から取り戻そうとして起きたのが、あの骨肉のバトルです。
騒動は泥沼化し、父娘の法廷劇にまで発展しましたが、最終的には株主総会で久美子氏が有効株式数の過半数の支持を得て勝利を収めました。勝久氏は会長を解任され、取締役からも外されています。
その後、久美子社長は自身が信じる経営方針を強く遂行しました。
この大塚家具の例から学ぶべきは、「経営方針を親から引き継ぐ場合も、子の代で改革する場合も、親と子の相互理解が重要だ」ということです。
大塚家具の場合は、幸いにして久美子氏に経営手腕や先見の明があり、その“暴走′′はよい結果をもたらしましたが、これがもし経営の資質・能力がない後継者だったとしたらどうでしょうか。
経営のことを分かっていない2代目が会社を私物化し、無計画に事業拡大・転換をしたり、金融機関に言われるままに多額の融資を組んだり、気に入らない従業員を理不尽に解雇したりなどしたら、会社はすぐさま傾いてしまうでしょう。傾くくらいで済めばいいですが、最悪の場合は家族や従業員や取引先を巻き込んで、破産や倒産などの転落の道をたどることにもなってしまいます。
会社の大事さや人の上に立つことの意味をきちんと伝えておかないことは、親の罪です。
経営者として、次世代に会社を譲るためには、いかに時間や手間をかけて、親から子へ′′経営のこころ′′を注入していけるかが肝になってくるのです。